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メディセレ薬局 現場からの声

走れ、モバイルファーマシー

 皆さん、こんにちは。令和6年能登半島地震の影響はいまだ続いており、この原稿を執筆している2月上旬の段階でまだ約13,000人の方が避難生活を送っています。全ての皆さんがかつての日常生活を取り戻せる日が1日も早く来ることを心から祈っています。

 今回の能登半島地震では、多くのモバイルファーマシーが出動しています。皆さんは、モバイルファーマシーをご存じでしょうか?正式名称を「災害対策医薬品供給車両」と言います。キャンピングカーなどをベースに開発され、医師の処方箋が必要な医薬品を車内で調剤して患者に手渡すことができる車両です。モバイルファーマシーには、最大500種類の医薬品、調剤棚、分包機、電子天秤のほか発電機,飲料水タンク、冷蔵庫、派遣された薬剤師が寝るための簡易ベッドなどを備え、ライフラインの途絶した被災地でも自立的に調剤作業などを行う能力を有しています。2011年に起きた東日本大震災の経験をもとに、宮城県薬剤師会が開発したのが始まりで、徐々に全国に広がっていきました。今では全国に約20台のモバイルファーマシーが運用されています。
 2016年の熊本地震の時に、大分県、広島県、和歌山県のモバイルファーマシーが大規模災害において初めて投入されました。当時は、モバイルファーマシーの存在が医療従事者の中にも行政の中にもほとんど知られていなかったため、モバイルファーマシーの利点や機能に対する理解が得られず、活用場所や方法がうまく見いだせずに被災地を転々とした例もありました。そんな中で、派遣された薬剤師は試行錯誤を繰り返しながら、多職種と連携し、「医療活動の拠点」となる運用法を見つけ出しました。熊本地震におけるモバイルファーマシーの活躍は、災害時に「薬」に特化した医療車両が「医療活動の拠点」となる転換点となった出来事でした。

 今回の能登半島地震には7台のモバイルファーマシーが派遣されています。もちろん、モバイルファーマシーというハードウェアのみが派遣されているわけではなく、薬剤師も一緒に被災地の支援に入ります。多くの薬剤師や支援者は、自身が勤める薬局や病院での役割もあるので、長期間被災地での支援活動を継続することはできません。1週間ほどの支援活動を終えたら、後続で来る薬剤師に支援活動を引き継ぎ、モバイルファーマシーを残して本来の役割に戻ります。残されたモバイルファーマシーは「ここに十分な医薬品がある」ということを、被災者にも支援に来た他の医療職にも示し続けることになります。大規模災害時は食べ物がないように薬もまたないのです。DMAT(災害派遣医療チーム:前コラム参照)が持ち込む医薬品は、種類も数も意外と少なく、たくさんの被災者が失ってしまった、あるいは手に入れることができなくなった医薬品を提供することはできません。超急性期・急性期の医療が必要な被災者がいる傍らで、日常的に必要な薬を失い健康上のリスクにおびえる被災者の支援することも重要で、そのためには多くの種類と数の医薬品が必要です。その一翼を担いうるのがモバイルファーマシーと共に支援に入る薬剤師なのです。

 能登半島地震の支援に入ったモバイルファーマシーは、熊本地震の時とは異なり多くのメディアに取り上げられニュースでも報道されました。医療従事者はもちろん、広く一般の市民の間でも認知度が上がるとともに、いざという時にはモバイルファーマシーが来て薬を供給してくれるんだという期待も高まるでしょう。今後のモバイルファーマシーの活躍の幅も大きく広がっていくことと思います。
 しかしながら、モバイルファーマシーは配備だけでなく、その維持に多大な経費が掛かります。あまり語られないことですが、大きな災害のない時に(その方が圧倒的に長いのですが)、モバイルファーマシーをどう活用するのか、ということが問題の一つでもあります。実験的試みで、薬局がない僻地を巡回して「移動薬局」としての活用も検討されています。ですがこれには、法律や制度が定める「薬局」の要件を、どのように折り合いをつけていくのかという問題があります。現状では、モバイルファーマシーは「薬局」としては認められていないので、平常時に薬局と同じようには使えないのです。

 被災地で薬を待っている被災者がおり、その方々は健康上のリスクや不安と戦っています。そのような人たちの支援を行うため、モバイルファーマシーや薬剤師が被災地に入ることの重要性はもはや議論の必要はないでしょう。
 全ての薬剤師が、大規模災害時に被災地支援に行く必要も義務もありません。それでも、全ての薬剤師が、モバイルファーマシーのことを知り考えることは、このような大きなシステムを維持運用するうえでとても大切なことなのです。これを期に、皆さんもモバイルファーマシーのことを調べたり、考えたりして欲しいと思います。

 本コラムで使用している写真は、和歌山県薬剤師会のモバイルファーマシーと薬剤師が能登半島地震で支援をしている際の実際の様子です。貴重な写真を提供いただきました和歌山県薬剤師会の山下真経先生に深く感謝いたします。

メディセレ薬局 管理薬剤師

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