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メディセレ薬局 現場からの声

災害時に処方箋がもらえなくても

 皆さん、こんにちは。この原稿を書いている時点では、令和6年能登半島地震が発災して1週間も経っていません。お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、未だ安否が分からない人たちの無事と1日も早い復旧、日常生活の回復を切に願っております。

 この機会に、災害時の薬局、薬剤師の役割について考えてみたいと思います。もう社会でも広く認知されていますが、大規模災害が発生した時DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)が結成、派遣されます。DMATは、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成されています。大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、おおむね48時間以内の超急性期から急性期に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームです。DMATには薬剤師が含まれることは明記されていませんが、多くの薬剤師が業務調整員としてDMATに参加しています。なぜDMATに薬剤師が必須ではないのか、ということに関してはいろいろな議論はあるのですが、災害時における超急性期から急性期の医療においては救命活動が主体となることが多く、持ち込む薬剤が限られていること、細かな薬の飲み合わせや調整よりも救急救命を優先することが多いため、薬剤師の専門性が発揮されにくいことが挙げられます。DMATに薬剤師が同行して重要な貢献ができたという報告もありますが、制度として薬剤師を必須にするようには現在のところ至っていません。またDMATになるためには、DMAT指定医療機関もしくは災害拠点病院に勤務し、一定の研修を受ける必要があり、薬局の薬剤師がDMATとなることは難しいのが現状です。

 では、薬局の薬剤師が災害時にできることは何でしょうか。今日はできることの一つを紹介したいと思います。医療用医薬品は、原則として「医師等からの処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、販売を行ってはならない」と定められています(薬機法第四十九条)。 しかし災害時には、病院やクリニックが機能しない、交通の断絶により医師の診察を受けることができないなど、日常では当たり前にもらっている処方せんを患者さんが手に入れることができない事が多々あります。東日本大震災や熊本地震、今回の能登半島地震のように、広範囲に被害がおよび、地域の医療が事実上停止したり、過去には豪雪により公共交通機関や自家用車や徒歩での移動も困難になり、受診が不可能になったこともあります。手元に薬が十分にあれば、しばらくは問題にはならないですが、薬が切れてしまう、あるいは災害等により紛失・消失してしまうことも当然考えられます。このような場合、患者さんは日々飲んでいる薬をどうやって手に入れればよいのでしょうか。ここで重要になるのが、薬機法第四十九条中にある「正当な理由なく」という文言です。「正当な理由」があれば、処方箋の交付を受けていない者に対して医療用医薬品を販売しても構わないのです。では、正当な理由とはどのようなものでしょうか。これは、平成26年3月18日厚生労働省医薬食品局長の通知で定められています。その中の一つに、「大規模災害時等において、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合に、患者(現に患者の看護に当たっている者を含む。)に対し、必要な処方箋医薬品を販売する場合」という項目があります。つまり、大規模災害時は、処方箋の交付を受けていない者に対して医療用医薬品を販売しても構わないことになっています。

 この規定に関しては、時々誤解されていますが、厚生労働省が個別の災害に「この災害は正当な理由に該当します」と指定する訳ではありません。平成26年3月18日厚生労働省医薬食品局長の通知は常に有効であり、国からの指定がなくても「大規模災害時等において、医師等の受診・処方箋の交付が困難な患者」に対して、処方箋がなくても薬剤師は医療用医薬品を交付することができるのです。もちろん、このような例外規定の運用は慎重であるべきです。患者が直接受診できなくても、電話等により主治医との連絡が可能であれば取るべきですし、お薬手帳や薬歴によってその患者が常用している必要な医薬品であることを確認することが求められます。

患者さんが日々飲んでいる薬には、「毎日飲まなければ健康上に重大な影響を及ぼす薬」と「しばらく飲まなくても重大な影響を及ぼす可能性が少ない薬」があります。全ての薬をいつも通り飲むことが理想ですが、災害時にはそれが適わないこともあります。調剤をしながら「もしもの時にはこの薬だけは確保して、この患者さんには渡せるようにしておいた方がいい」という「薬の優先順位」のことを考えるようにしています。災害から遠ざかると、そういう意識も薄れてしまいがちですが、今回の地震を機に改めて意識したいと思います。

参考:薬食発 0318 第4号 平成 26 年3月 18 日 厚生労働省医薬食品局長の通知
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/yakkyoku.pdf

メディセレ薬局 管理薬剤師

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